2010年インディジャパン観戦記


↑オーバルといえば金網、近くだと見づらいし撮りづらい!気分は金網マッチをリングサイドで見るプロレスファン。

アメリカのレースがオーバルコースで行われるようになったのは、自動車黎明期、街の腕自慢が勝負する場所としてダートトラックの競馬場が使われていたことに起源を発するらしい。ヨーロッパ式の都市間レースは広大なアメリカ大陸では軽く自動車の限界を超えてしまうし、人の目がなくなればズルをしてしまうものも出てきてしまうだろうから、オープンな文化のアメリカでは受け入れられなかった。逆にヨーロッパでは競馬場は貴族の社交の場でなので、キレイに手入れされた芝生のトラックの上を自動車が踏み荒らすのは言語道断、というわけで大西洋を隔ててアメリカとヨーロッパは別々の形でモータースポーツの文化が育っていった。
 これまでロードコースのレースを見た、市街地コースのレースも見た、雨のレースも経験済み。ならばあとはアメリカを体現するオーバルコースでのレースを見ておかねばというわけで日本開催はもう12年目というツインリンクもてぎのオーバルレース「インディジャパン300」を見に行ってきました。

9月18日(土)
 朝の首都高は事故で大渋滞。東京のイーストエンドに住んでいるにもかかわらず、東京を出るだけで2時間もかかってしまった。朝の7時に出たのにサーキットについたのは11時近く。おかげで1回目のプラクティスは見損ねてしまった。駐車場に車を止め、サーキットへ向かう。普通九月と言えば秋本番のはずなのに、真夏日目前まで気温は上昇、日差しもかなり厳しい。結構な距離を歩き正面の入場ゲートにたどり着くまでにかなりの汗をかいてしまった。行動の早い人はサーキット近くの指定駐車場に車を停めている。少し離れたところに停めている人の中には準備よく折りたたみ自転車を持ち込んでいる人もいた。来年のための参考になるなぁ。

↑やってきましたツインリンクもてぎ。青空が実にきれいでした。

 気を取り直して入場。グランドスタンドの指定席は真ん中の席ですし詰めにされるのがオチなので、自由席にする。その代わり浮いた分でパドックパスを手に入れた。F1で一般の観客がパドックに入ろうと思ったら一枚ウン十万円のパドッククラブのチケットを買わないといけないのに比べれば1万円というのはなんという破格の安さ!2回目のプラクティスまでの間にさっそく潜入してみることにする。F1でパドックといえば派手なモーターホームが並ぶ華やかな空間だが、遠く離れた日本まではるばる来るだけに、そのモーターホームにあたる建物はプレハブ小屋で、やや拍子抜け。しかし、その雰囲気は実に開放的だ。ガレージとレースで使用するピットが離れているのがアメリカ式だが、その間の往来も自由。パドック内の人口は観客の方が多いくらいで、メカニックの人たちはその合間を縫って作業をしているようだった。

(左)望遠レンズなしでこんなに大きく撮れます。メカニックの人たちも慣れっこの様子。
(右)メカニックのサーキット内での足はこの軽トラ。運転席はアメリカ人には狭いのかみんな荷台に乗っていました。


 メカ好きとしてはマシンの写真を撮る事がメインなのでガレージ周辺でメンテナンス作業などを撮っていく。カメラ片手の人がかなり多いが、、それ以上にパドックを闊歩する観客の手にはプログラムとサインペン。そう、お目当てはドライバーたち。芸能界の「出待ち」よろしくガレージやピットへ向かう間にほぼ例外なくサイン攻めに遭っている。急いでいるとはいえ可能な限りそれらのリクエストに応えている。しかし、群衆になると何をしでかすか分からないのが日本人。久しぶりの地元レースとなった佐藤琢磨選手の周りは常に押すな押すなの人だかり。チャンピオン争いで緊張感漂うペンスキーとチップ・ガナッシのピットですら警備も何もないのに、KVレーシングの前だけは鉄柵が置かれ、イベントなどで移動する際も自動車横付けの徹底振り。

 練習走行が始まるのでスタンド席から観戦。土曜日は指定席も自由に入れるのでまずはA席に座る。非常に見通しがよくほぼサーキット全体を見渡すことができる。ひとくされマシンが走るのを見てから場所を変えてB席に陣取るとここでもコース全体が見渡せる。写真を撮るのにはいい場所なのでカメラを構えることにする。
 ヨーロッパでもプロ顔負けの望遠レンズでシャッターチャンスを狙う「本気」の人は多かったが、日本はその上を行っていた。普通のコンパクトサイズのデジカメを持っている人が少ないので余計に目立つ。安全のためというのもあるが結構マシンとの距離が遠く、普通のカメラのズーム機能だけでは大きく写せないし、とにかくスピードが速いからディスプレイ越しではまともに写せない。携帯電話で撮ろうとしてすぐにあきらめる人も結構いた。

(左)オーバルのいいのはなんといってもこの開放感。自由に入れるプラクティスなら迷わずこっち。
(右)近くても遠くても金網は結構邪魔。皆さん、どうされてます?


 そのスピード感やバンクを駆け抜ける姿は実に壮観だったが、ひとつだけ欠けるものがあった。それはトラック上に佐藤琢磨選手がいないこと。渋滞のおかげで見そびれた最初の練習走行でクラッシュ、修理に追われていたのだ。見晴らしのいい座席は一番奥まった3コーナーまで見渡せるが、観客の視線も報道陣のカメラもKVのガレージに集中している。修理が完了しピットにブリティッシュグリーンのマシンが現れるとやんやの歓声。パドックでもコース上でも主役はやっぱりこの人だった。
 2度目のプラクティスから予選の間は再びパドックをぶらぶら。相変わらずドライバーへのサイン攻めは続いているようだ。ただ、よく見るとお目当てはドライバーにとどまらない。チームの顔とはいえ基本的には裏方であるオーナーたちもその標的になっていた。マイケル・アンドレッティやジミー・バッサーといった元ドライバーならまだしも、傍目にはただのおっさんにしか見えないロジャー・ペンスキーまでもガレージからピットに行くまでに忙しくサインをこなしていた。ここら辺もさすがアメリカ。

(左)モナコでのジャッキ・スチュワートに続きレジェンド発見!現在はチームオーナーのマイケル・アンドレッティ
(右)タイムアタックを追えて笑顔ガレージに戻る「ベネズエラのスーパーウーマン」ミルカ・デューノ。やっぱり荷台に乗っています。

 
 陽がだいぶ傾いてから西日を背に予選が開始。走行を終えたドライバーたちの表情も見られるのでピット後方、オーバルの内側から観戦する。距離的にはスタンドと変わらないが、タイムアタックを終えたマシンやドライバーがガレージに戻ってくるので見所が多い。それに何よりすり鉢状のオーバルの内側から見る光景という普段見ることのないアングル、バンクに張り付くマシンの姿が新鮮に映る。ここでも主役はやっぱり佐藤琢磨。練習走行をろくに走れなかったにもかかわらずトップ10に食い込んできた。地元の歓声を力に変えてしまうのが琢磨選手のすごいところ。観客にとっては非常にいい形で予選は終了した。が、パドックの中はまだまだ忙しい。明日のためにマシンの調整に余念のないメカニック、取材に走るメディア関係者、サインを狙う観客の数もちっとも減らない。こういう空間に入ってしまうとどうなるか、帰るタイミングがわからなくなってしまうのだ。これは今年モナコの金曜日で体験済みだ。いればいるだけ面白いことが出てきてしまう。どこかで何かきっかけが出てこないと昼飯もろくに食べていないし、早く帰ってビールも飲みたい誘惑のほうが勝ったため今回ばかりはきり良くサーキットを後にすることができた。

(左)この人も「持っている」、佐藤琢磨選手の周りは常に人だかり。ぶっつけ本番のアタックで見事予選10位。
(右)予選を終えてガレージで最終調整。これも今のF1では見られない光景。


9月19日(日)
 オーバルレースは雨が降ると中止になってしまう。CART時代から日曜を予備日にしなければならないために決勝レースが土曜日だったことももてぎにいけなかった理由のひとつだった。今年は連休に乗っかる形でのスケジュールになり勇躍もてぎに行くことになったのだが、このことで大変なことがもうひとつ、もれなくついてきてしまった。いうまでもなく渋滞。昨日と同じ朝の7時過ぎに家を出たら首都高こそそこそこ順調に抜けられたが、常磐道はやっぱり渋滞。
 結局そこそこの時間でもてぎに到着し、食事もそこそこに昨日に引き続きパドックへ一直線。昨日もかなり自由に闊歩できたが、今日はマシンのメンテナンスも大掛かりなものではなく、チームによってはガレージの中まで入り込める。決勝を前に腹ごしらえといったんパドックを出て屋台が立ち並ぶ一角で昼飯。宇都宮が近いから餃子もあるし、そのほか多岐にわたるバリエーションが大変うれしい。ヨーロッパのサーキットの売店なんて食べるものといえばサンドイッチくらいしかないことを考えるとこの選択肢の多さは新鮮に映る。

 腹を落ち着かせ、再びオーバルの内側へ。決勝レースを見る場所のあたりを付けに行く。選んだのはガレージの屋上。周りにさえぎるものはなく吹きさらしだが眺めは良好。レースの流れをつかむ為には体をグルグルと回さなければならないが、スタンド席の真ん中で前後左右固められることを思えばこんなものは苦でもなんでもない。聞こえてくる話から察するにここで見る人というのは毎年ここで見ている人が多いようだ。自分のように混雑を避けて見に来る人もいれば、サーキットではおなじみの「日本野鳥の会も裸足で逃げ出す」超望遠レンズつきのカメラをぶら下げている人もいる。

↑ガレージ上からの眺め。F1ならここから見るのにウン十万円払わなくてはなりません。

自分の見る場所を確保するとスタート前のセレモニーが始まった。予選順位に沿ってドライバーが登場するのだが、当然のことながらメインスタンドに向かってセレモニーは行われるのでガレージの上からは裏側しか見えない。スモークとともに現れる裏では世界のトップドライバーが階段を前にお行儀よく整列しているシーンには少しホッとした。国歌斉唱やエンジン始動の御発声というおなじみの儀式を経ていよいよ各マシンレーストラックに入りスタート。アメリカのレースの最大の特徴のひとつにローリングスタートがあるがスタンディングスタートのような緊張感もスタート直後の接触も少ないが、その反面クリーンなスタートができ、開始直後に相当数のマシンがリタイヤ、というリスクも少ない。

↑自分の腕とカメラではこれで精一杯。来年はリベンジです。

 レース自体はこれまで自分が生で見たレース同様に淡々と進んでいった。最初のイエローコーションで武藤英紀選手が無給油で2位にまであがったのが数少ない見せ場で、後はペンスキーとチップガナッシ、そしてアンドレッティ・オートスポーツの9台で上位を独占しリタイアするのも下位チームのマシンたち。そんな中で12位完走の砂糖琢磨選手の走りはやっぱり賞賛に値する走りだった。今のF1でいえばレッドブル、マクラーレン、フェラーリの次に来るくらいのポジションだと考えれば、しかもほとんど走り込みができない状態でのこのリザルト。これなら来期も期待できそうだ。

↑クラッシュしたマシンがガレージに運び込まれる。残業の人も。

 勝利したのはエリオ・カストロネベス。インディカー初観戦でこの人の金網昇りが見られたのは大きな収穫だった。果たしてこれは客席から見るのがいいのかオーバルの内側から見るのがいいのかわからないが、とにかく見られたことが貴重ということにしておこう。
表彰式が終わるとオーバルトラックが開放された。相変わらず人混みが苦手なのでそちらには向かわず変えるタイミングをうかがう。相変わらずこの辺の見切りをつけるのが下手なので、潔くすぐにサーキットを出る。それでも駐車場に向かう人の列は途切れないのでしばしホンダコレクションホールで歴史のお勉強。空冷RA302やラルト・ホンダF2のようなマニアックなクルマまであるのがさすがホンダのミュージアム。そういえば自分がこういう博物館で見たF1マシンはこういうキワモノが結構多い。普通のマシンはどこで見られるのやら。

(左)ラルト・ホンダF2。ラルトのワークスチーム仕様でドライバーはジェフ・リース
(右)後のワールドチャンピオンも乗ったマシンですが、近い将来キワモノ扱いされてしまうかもしれません。ホンダRA107。


 一時間以上いたはずだが、人の波は途切れるどころか増える一方なのであきらめて帰路につくことにする。4時半にもてぎを出たが、まず高速道路に出るまでの一般道が渋滞。高速に乗るまでに1時間かかり、常磐道に入ってもほかからの帰りの車も合わさって都内まで途切れることのない大渋滞。腹をくくって渋滞に甘んじることにする。家に着いたのは10時。なんと6時間もかかってしまった。来年行くときはもう少し早めに出るか、さもなければ多少遠回りでもほかの道を選ぶことにしよう。来年も土日開催ならば、だけど。

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